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【YUKIKA】あの頃の体現者【Cherries Jubiles】

7月9日に日本出身のユキカが、セカンドシングル『Cherries Jubiles(좋아하고 있어요)』をリリース、MVを公開しました。

ユキカ
(YUKIKA/유키카)
寺本來可
(てらもと ゆきか)
1993年2月16日(27歳)
静岡県 浜松市
164cm/A型
ESTiMATE Entertainment
Instagram/HP
2006年に第10回モデルオーディションでグランプリを獲得し、新潮社の「nicola」 の専属モデルを務ていた。当時の所属事務所はEver Green。モデルになる前から憧れていた声優への道を志すため、2009年に声優事務所オーディションに合格してI’mエンタープライズに籍を移し、声優業などに勤しむ。2012年に学業に専念するため3年ほど休業し、2015年に復帰。2016年4月にバンダイナムコから発売された育成シミュレーションゲーム「アイドルマスター(THE IDOLM@STER、略称:アイマス)」を原案に制作された韓国ドラマ「アイドルマスター.KR」のオーディションに、原作のファンだったユキカは600ほどの単語を2週間で丸暗記して臨み合格し、韓国の事務所M.O.Lエンターテイメントと契約した。ドラマに登場する10人組ガールズアイドルグループ「Real Girls Project」としてドラマ終了後も実際に活動を続けた。2017年の年末から放送されたサバイバル番組JTBC「MIXNINE」に出演したが二次で脱落した。その後「Real Girls Project」もユキカも目立った活動はなくなっていくが、現所属のESTiMATEエンターテイメントと契約したことが確認され、2019年2月22日にソロ・デビューを果たした。

ユキカのデビューシングルである「NEON(네온)」は、その知名度とは裏腹にスマッシュヒットとなりました。それは彼女自身が日本と韓国で地道に活動してきたことの恩恵でもありますが、それ以上に大きく作用したのが製作陣との出会いです。

ソロ・デビュー前に移籍したESTiMATEエンターテイメントという事務所は、ESTi(パク・ジンベ:박진배)という人が2015年に立ち上げた会社です。ESTiは幼少期(1980年生まれ)から日本のゲーム音楽を敬愛しており、日本に強く憧れを抱くような青年でした。2017年には初来日を果たし、東京の秋葉原などを訪れたりする所謂“オタク”と呼ばれる人種に育ちます。その後も日本のゲームやアニメを人目を気にせず楽しむために、韓国外国語大学の日本語科に入学し、卒業後の2004年から日本向けの韓国産ゲームのBGMを中心とするゲームミュージックの作曲・編曲を手がけるようになります。日本でも同人系音楽をきっかけに韓国発ではない作品にも参加しており、日本のゲーム音楽業界とも交友を広げていきます。2017年4月にESTiMATEエンターテイメントを有限会社にし、代表取締役を務めています。

日本の音楽に造詣が深いESTiはユキカのソロデビューに向けて、とある特異なスタッフ陣を用意します。

まずProject Supervisor(企画管理者)というポジションにジェイデン・ジョン(Jaden Jeong)ことチョン・ビョンギ(정병기)という人を迎えます。

彼はA&R(Artist and Repertoire:アーティストの発掘からコンセプト企画、制作、広報に至るまでレコード会社の業務全般を指揮する責任者。楽曲ごとのプロデューサーを統括してグループとしての方向性を示す、統括プロデューサーのような立ち位置)という役職をKポップに持ち込んだ人物として知られており、過去にはWonder Girls、2PM、2AM、misssA、NELL、INFINITE、LOVELYZ、最近ではHeizeやGroovy Roomなどの名だたる相手と仕事の実績があります。現在は莫大な資金を投入した一大アイドル・プロジェクトである이달의 소녀(イダレ ソニョ)でその手腕を振るっています。国内では予算に見合わない売り上げから批判的な評価もありますが、海外(国別YouTubeの再生回数はアメリカ、韓国、ブラジルの順)からは熱狂的な支持を受けているという側面もあります。

そしてイダレソニョのディスコグラフィを見ても明らかな通り、チョン・ビョンギとESTiには日本の音楽から多大な影響を受けているという共通点があります。同世代である彼らが多感な時期を過ごしたのは日本大衆文化の流入制限制度の時代ですが、当時の若者は様々なルートを介し日本の音楽を入手してはウォークマンで聴いていたと言います。彼らにとってJポップは青春を象徴する禁断の果実だったということが容易に想像できます。

MVの製作にはイダレソニョのMVのほとんどを手がけている売れっ子映像作家集団DIGIPEDIが迎えられ

そのDIGIPEDIとなんども手を組み、今のKポップで最も引く手数多と言われる美術チームMu:EもArt Director(美術監督)として参加しています。

もうこの時点でイダレソニョ感満載であり、ある意味成功の裏付けは揃ってはいるのですが、肝心要の楽曲の方で捻りを加えてきます。

GFRIENDなどの楽曲提供で知られる二人組イギ/ヨンベ(이기용배)のイギが率いる3人組の作曲家集団OREOが作詞・作曲・編曲を手がけることになるのです。彼らもイダレソニョと全く関係がないわけではなく、第3の少女ことリーダー・ハスルの「소년, 소녀 (Let Me In)」、最初のユニットLOONA 1/3の「비의 목소리 51db(Rain 51db)」の製作(作詞・作曲・編曲)に携わっています。ただイダレソニョの楽曲は同じ人が複数の曲を担当しているケースが非常に多く、タイトル曲が含まれているとは言え2曲はかなり少ない方と言えます。

つまり、がっつりイダレソニョチームではないが、全く携わったことことがないわけではない、世間的な知名度は抜群の作曲家という変化球を仕込んだということです。

そして作られたのが70〜80年代の日本の音楽シーンで生まれ、近年はノスタルジーを感じられるということで世界的なブームになりつつある“シティ・ポップ”だったのです。このジャンルは世界的な再燃が認知されているのにも関わらず、本家本元である日本の音楽シーンには未だ大した影響を与えていないという不思議な点もあります。

MVでは、過去(1989年)のレトロなアイドルであるユキカが、現代を生きる韓国人青年と音楽を介して通信し、出会う様子が描かれています。この韓国人青年こそがESTiでありチョン・ビョンギであり、ユキカはかつて彼らが憧れた日本の音楽の象徴だと言えるでしょう。

KCON JAPANでも先行披露されたセカンドシングル『Cherries Jubiles(좋아하고 있어요)』では、さらなる変化が加えられています。著名ではあるもののイダレソニョチームとしては端くれに位置するOREOがいるように、逆に大半の楽曲を手がけているメインとも言えるチームも存在します。それが今回の楽曲を制作しているMonoTreeです。

MonoTreeは総勢14人にものぼるため作曲家集団ではなく、作曲家のマネジメント会社とするのが正しいそうです。個々人の知名度はそれほどないものの、その音楽性の高さから評論家や音楽マニアの間では圧倒的な支持を受けています。またSMエンターテイメントへの楽曲提供が多く、OREO以上に大衆的なアンテナを持っているチームとも言えます。事実アルバムの紹介文にも「今回はより大衆的な路線を選んだ」と書かれています。

原題の「좋아하고 있어요」は“好きでいます”という意味で、英題の「Cherries Jubiles」“さくらんぼたちのお祭り”を意味します。DIGIPEDIが再びメガホンを取ったMVでは、90年代初頭の日本のレトロフィルムの感性を料理と三角関係というテーマで表現しているようです。またストーリーの演出としてあだち充のような青春スポーツ漫画の空気感を意識しているようです。

Kポップシーンにおいてユキカには唯一無二の特性があります。それはグループ所属ではなく日本人のソロシンガーだということです。最近はTWICEを筆頭に日本人メンバーが所属しているアイドルグループが増えてきましたが、それはマーケティングも含めて日本のエッセンスを取り入れているにすぎません。ユキカは単に日本人というよりも、韓国における日本そのものを表現することができます。そして彼女にはレトロな感性を引き出す古風な佇まいがあります。

当然ユキカはシティポップが彩った当時の日本の音楽シーンを知りません。しかし最近のインタビューでKポップスターの印象や渡韓のきっかけについて、こう語っています。

「韓国アイドルの方々は、私にとってはハリウッドスターのような感覚でした。」 

「小さい頃からBoA先輩や少女時代先輩、KARA先輩のファンだったんです。」

その気持ちは当時の日本の音楽に対してESTiやチョン・ビョンギが抱いた憧れと、なんら変わりがないような気がします。

近いようで遠い、憧れていた隣国。それはユキカという体現者を通して現代に語り継がれていきます。

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