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【映画】工作・黒金星と呼ばれた男【レビュー】

マスク2枚。

これはいま日本で新型コロナウィルスに次いで最も話題となっているキラーワードであり、おそらく現政権の支持層も含め、多くの国民が発熱しそうなほどずっこけた、日本政府対策本部が行う予定である緊急経済対策の一つです。

その是非はともかくとして、このように国や政治、歴史に翻弄されるのは常に市井の人々なのです。

という事で第二回となる映画レビュー。今回はこちらの映画をご紹介させて頂きます。

工作
黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男
原題:공작(コンジャク/工作)
監督:ユン・ジョンビン
脚本:クォン・ソンフィ、ユン・ジョンビン 
製作:ソン・サンボム、ハン・ジェドク、クク・スラン
撮影:チェ・チャンミン
編集:キム・サンボム、キム・ジェボム
公開:韓国・2018年8月8日/日本:2019年7月19日
上映時間:137分(カンヌ映画祭上映版:147分)
製作国:韓国
制作費:165億ウォン
ワールドボックスオフィス:$31,493,627

「工作 黒金星(ブラック・ヴィーナス)と呼ばれた男 」は実際にあった事件を元にしており数々の賞も受賞しましたが、日本での公開規模はそれほど大きくなかったと記憶しています。加えて「スパイもの」と言っても「ミッション・インポッシブル」のような大作ではなく、しかも政治がらみの実話ベースという事で「難しそう」と見逃した方も少なくないのかなと思います。
このブログに訪れて頂いている方々は当然Kポップ好きであり、それはつまり多くの方が韓国に対して好意的な感情を持っているものだと捉えています。
Kポップは楽しい。それは確かな事です。けれどもその韓国で実際に起こった事件、そしてその裏側に潜む暗部を知る事も、より韓国という国を理解する上で重要な事なのではないかと思うのです。

今回のレビューは過去の実話を元にしている事も含め、いくつか核心に触れざるを得ないような箇所も出てくるかと思いますが、映画を理解する上で必要な情報だと思いますのでご了承ください。一応、最終盤にどうなったのかというのは伏せます。

予告編・あらすじ

92年、北朝鮮の核開発により緊張状態が高まるなか、軍人だったパク・ソギョンは核開発の実態を探るため、「黒金星(ブラック・ヴィーナス)」というコードネームの工作員として北朝鮮に潜入する。事業家に扮したパクは、慎重な工作活動によって北朝鮮の対外交渉を一手に握るリ所長の信頼を得ることに成功し、最高権力者である金正日と会うチャンスもつかむ。しかし97年、韓国の大統領選挙をめぐる祖国と北朝鮮の裏取引によって、自分が命を懸けた工作活動が無になることを知ったパクは、激しく苦悩する。

映画.comより

登場人物

パク・ソギョン
(演:ファン・ジョンミン)
リ・ミョンウン所長
(演:イ・ソンミン)
元陸軍情報指令部。階級は少佐。国家安全企画部(通称:安企部)からリクルートされ、スパイとして北朝鮮の核開発情報を探る。コードネーム「黒金星/ブラック・ヴィーナス」。 北京を拠点とする外貨獲得の責任者で、北朝鮮対外経済委員会の審議所長。軍の所属ではないが、金正日と単独で会えるほど多大な影響力を持つ。
チェ・ハクソン室長
(演:チョ・ジヌン)
チョン・ムテク課長
(演:チュ・ジフン)
国家安全企画部(通称:安企部)室長。パク直属の上司として指令を送る。 国家安全保衛部の上佐だが、現在は対外経済委に派遣されている。役職は課長。当初からパクがスパイではないかと疑りの目を向けている。

見所

様々な人々の思惑が交錯するスパイものでありながら、登場人物はほぼ上記の4人です。派手な銃撃戦もなければ、金正日暗殺指令が降るわけではありません。にも関わらず、非常に濃厚で緊張感のあるシーンが続き、全く飽きる事がありません。特に松重豊似のファン・ジョンミン演じる主人公、パク・ソギョンが金正日に接見する事になる一連のシークエンスは必見で、「あの金正日に会う時はこんな感じなのか。マジでビビるわ」と一挙手一投足にハラハラします。
そしてメインとなるのは、分断され異なる思想を持った南北それぞれの国で生きるパク・ソギョンとリ所長の交流です。北朝鮮の核保有の進捗状況を知る為、実業家に扮してその情報を探るパク・ソギョンと、外貨を獲得する事で国を豊かにしたいリ所長。パク・ソギョンは当初、“韓国のため”スパイとして様々な工作を企てるわけですが、両国間でのビジネスを通じ、それは純粋に南北関係の改善に繋がる事だと気づいていくのです。
しかしそこで弊害となるのが政治的思惑なのですが、一見すると聞き慣れない言葉や歴史的背景などもあるので、いくつかのポイントを以下で説明したいと思います。

キーワード

北朝鮮と中国(北京)

物語の中でパク・ソギョンとリ所長が初めて接触するなど、主な場所として登場するのが北京です。両国は中朝友好協力相互援助条約によって軍事同盟を結んでおり、北朝鮮の対外貿易の9割超も占めているようです。平壌〜北京間も国際列車で繋がっています。

浩然の気

リ所長がパク・ソギョンを評して言った言葉。
goo辞書によると「《「孟子」公孫丑上から》 1 天地にみなぎっている、万物の生命力や活力の源となる気。 2 物事にとらわれない、おおらかな心持ち。」

国家保安法

物語の冒頭で、北の核開発の情報を握る核物理学者・キム教授を来韓させる為、その弟子であるファン・ビョンチョルへの脅し文句として、更には最終的にパク・ソギョンが逮捕される事となる法律。
韓国の国家保安を脅かすような反国家活動を規制することで国家の安全と国民の生存・自由を確保することを目的とし、国内で北朝鮮および共産主義を賛美する行為とその兆候(軍政当時は南北統一の主張まで)が取締の対象となります。

国家安全企画部(通称:安企部)

物語上、最も重要なキーワードとなる一つがこの安企部です。前身は大韓民国中央情報部で、略称はKCIA。
KCIAは1961年に朴正煕(パク・チョンヒ)が軍事クーデターに成功した1ヶ月後に大韓民国国軍の諜報機関CIC(Counter Intelligence Corps、対敵諜報部隊)のメンバーを中心に設立されます。
朴正煕は1971年の大統領選挙で金大中(キム・テジュン)と争い辛くも勝利。しかし以降も民主主義を推し進めようとする金大中は、軍事政権である朴正煕にとって目の上のたんこぶでした。大統領選直後、そして1973年には日本の暴力団への協力を仰ぎ、金大中の暗殺を企てます(金大中事件)がいずれも失敗するのです。

1997年と金大中

先にも述べたように独裁とも言える軍事政権下だった当時の韓国政府にとって、リベラルな思想を持った金大中は危険な存在でした。しかし長年の軍事政権下で民衆の不満は徐々に募っていきます。時の政権は金大中を共産主義者と呼び、「タクシー運転手」で描かれた光州事件を先導したという濡れ衣を着せ、「1987、ある闘いの真実」で描かれた1987年には翌年のソウルオリンピック開催を目指す全斗煥(チョン・ドファン)大統領の下、過剰とも言えるテロリストの摘発と反政権勢力の弾圧を行うのです。しかし民衆は民主化運動によって軍事政権に反発し、徐々に民主化の波を広げていくのです。

そして1997年、まさしくパク・ソギョンが北朝鮮での工作によって核開発の内情を知りえるスタート地点とも言える場所までたどり着いた時、ついに金大中が大統領選でその座を勝ち取るかもしれないというのが、パクの運命を大きく動かすのです。

韓国が抱える暗部

野党で政権奪取を目指す金大中に対するのは与党の候補である李会昌(イ・フェチャン)ですが、金大中優勢と言われている中で与党が政権を維持する為にはどうすればいいのか。それは国家の危機を謳い文句とし、軍事政権が必要なのだと民衆に知らしめる事です。韓国にとって最も身近な国家の危機とは北朝鮮です。その北朝鮮が軍事行動を起こす事が最も有効な手段となる訳ですが、そこで動くのが安企部なのです。金大中を長年目の敵にしてきた安企部は、政権が交代する事で解体される事は必死です。物語の終盤で安企部の部長がチェ室長に対し「金大中が大統領になったら俺たちはクビだ」と言うセリフがありますが、そういった背景から出たものです。
その工作は北風事件と呼ばれ、国家のスキャンダルとしてはあり得ないレベルですが、それはぜひご自身の目で確かめて頂きたいと思います。

まとめ

金大中がついに政権を取るかもしれないという中で動く安企部と、国家の為、そしてそれが結果として南北間の関係改善へ繋がると信じるようになるパク・ソギョンとリ所長にはどんな結末が待っているのか。
冒頭に「国や政治、歴史に翻弄されるのは常に市井の人々だ」と書きましたが、スパイという特殊な職務、そして金正日と会えるほどの要職に付いている者でさえ、時として大きな流れに翻弄される“いち市民”なのです。
まぁなにはともあれ、安企部の工作もヤバいですが、クライマックスのシーンが本当に胸熱で、私は久しぶりに「あー、この終わり方最高だー」と目頭を抑えながらエンドロールを眺めていたのです。
ぜひ皆さまもハンカチを用意して…

あ…

布マスクの使い道あったな。

スパイというものはその時々の状況に対し臨機応変に対応していく能力が必要とされます。

我々も使えるものは使い、たくましく生きていきましょう。

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