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【ウ・ウォンジェ(Woo)】ささやかな主張【BLACK OUT】

8月18日(火)、AOMG所属のラッパー、ウ・ウォンジェ(Woo)が2017年にデビューして以降、初となるフルアルバム「BLACK OUT」をリリースしました。

ウ・ウォンジェ
(Woo)
ウ・ウォンジェ(우원재/禹元才/Woo Won-jae)
1996年12月23日
大韓民国 🇰🇷  慶尚北道慶州市
171cm/O型
所属レーベル:AOMG
所属クルー:Gates
HP(AOMG) / InstagramYouTube

ここ最近のウ・ウォンジェはSAAYやCODE KUNSTのアルバムにフィーチャリングで参加していたものの、自身の名義を冠した音源は昨年4月11日にリリースされたシングル「SS」(タイトル曲「SS (Feat. サイモン・ドミニク & Hoody) (Prod. By KHYO)」)以来、実に1年4ヶ月ぶり。

「BLACK OUT」は8月11日に収録曲の一つである「USED TO」のMVが公開、そして18日のアルバムリリースと同時にタイトル曲の一つである「JOB (Feat. Tiger JK & 김아일)」のMVが公開されましたが、どれも事前に一切の告知がなかったためサプライズにサプライズを重ねた1stフルアルバムのリリースとなりました。

USED TO
JOB (Feat. Tiger JK & 김아일)

更に8月25日には冒頭に貼ったもう一つのタイトル曲で、3ピースバンド・SE SO NEONのボーカル&ギター・So!YoON!(황소윤/ファン・ソユン)をフィーチャリングに迎えた「Do Not Disturb Feat. So!YoON!」のMVが公開されており、アルバムにはその他にジャッキー・ワイやAOMGのソロシンガー・sogummなどが参加しています。
余談ですが、そのsogummは「USED TO」にカメオ出演しているので、彼女がどこに映っているか探してみるのも面白いかもしれません。

さて、ウ・ウォンジェは毎月のように自身の音源をリリースしたり多くのフィーチャリングを重ねる他のラッパーとは違い、比較的緩やかなペースで活動するアーティストですが、そこには彼がプロとして活動する以前のバックボーンが影響しているような印象を受けます。

私は、彼がいわゆる一般的な大学生からSHOW ME THE MONEY6(以下SMTM)に出場したことで一気に注目を集め、プロのラッパーとして目まぐるしく変わっていく環境に戸惑いつつもどうにか折り合いをつけているようだという事を過去の記事内で書きました。

【ウ・ウォンジェ(Woo)】変わらないこと、変わったこと【GIRIBOY】

それは彼が普通の大学生だったというだけでなく、「鬱病と不安障害、パニック障害を患っている人物」だという事にも由来しています。私はそういった病から湧き上がる感情や危うさを孕んだような佇まい、そして富や名声よりも自己を保つための手段として音楽をやっているのではないかというところに惹かれた訳ですが、今回のアルバムリリースに際して行われたHIPHOPLEでのインタビューでは自身の病に対して、そしてデビュー以降に抱いた葛藤などが語られています。

この中で彼は「SMTMが終わってから今までの間、自分がどこに属しているのか、何が起こっているのかを完全に理解するのは困難だったが、今ようやくその環境に慣れてきた」と語っています。
一方でアーティストとして成功していくにつれ自身の中にも変化が生じ、それまで親しかった友人たちとの関係にも影響していったと明かしていますが、その1人がアルバムのTRACK8「CANADA」を手掛けているTE RIMです。

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📸 : @eozanob mv shooting 📽

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TE RIMはウ・ウォンジェがAOMGと契約する以前一緒に住み、共に音楽を作っていたプロデューサーでもあり仲間でした。そのTE RIMはSMTMで披露した「진자 (ZINZA) (Feat. YDG, 수란)」や後にリリースされたシングル「불안(プラン/不安)」なども手掛けており、「불안(プラン/不安)」の制作過程を追ったドキュメンタリーにも登場します。

インタビューから察するに、ウ・ウォンジェはレーベル加入後に居を移したようですが、とはいえ今や2人の関係が絶たれてしまったという訳ではなく、TE RIMは2018年にリリースされたウ・ウォンジェのEP「af」収録曲「CASH」も手掛けているので、以前よりは共に作業する機会が著しく減ったというのが正確なところだと思います。
しかしそこには成功体験によってTE RIMという友人に対し無意識のうちに作ってしまっていた距離があったようで、カナダをツアー中に送られてきた「CANADA」のトラックを聴いた事で彼への申し訳なさが募り、その心情を歌詞に込めた事でいまの自分の思いをようやくTE RIMに伝えられたのではないかと語っていました。

そして彼が病の事を歌詞にするのは「それは何も特別な事ではないし、自分自身もトラウマになるような事は何もなかった。けれども歌詞にしたりテレビで話す事で、より多くの人が病の事を知り、理解してもらえるのではないかと思う」と説明していますが、私は彼がこれまでに比べ病に対して深刻に考えていないような気がします。

それは1theKの「본인등판(本人登板)/Look Me Up」という企画の中で話す彼の姿を見てより強く感じました。

「본인등판(本人登板)/Look Me Up」はネットにある書き込みなどを見て、それに対しての感想を言うというものですが、この中で依然として不安障害はあるものの、鬱病とパニック障害はほとんど完治したと思うと明かしています。
そういった経緯もあるのか「病気はあくまでコンセプトで、(SMTMでは)母親のことまでネタにした」という書き込みに対して「当時は酷く傷ついて耐えられなかったけど、今は大丈夫」と言い、(あくまで放送上載せられる範囲とはいえ)その他の辛辣なコメントにも時に笑いながら答えている姿は、やはり以前の彼とは随分違って見えるというのが個人的な印象です。

そして先のインタビューではデビュー曲の「시차 (We Are)」が各音源チャートを席巻し大ヒットした事により、「チャートで1位を取る事は簡単だ」と勘違いし、メジャー志向の曲作りにもチャレンジしてみたと言っていましたが、後にやはり自分は自分が考える音楽しか出来ないと気付いたそうです。
そういった一時的な迷いはあったものの、「본인등판(本人登板)/Look Me Up」で語った事とあわせて見えてくるのは、「音楽のスタイルも、そして人としてもレッテルを貼られたくないし、何かの型にはめられたくない。自分は自分でしかないからだ」という考えです。それは他者に対しても「同じ1人の人間である」と尊重するべきだという姿勢に他なりません。

ウ・ウォンジェというアーティストは、声高に自らの考えを雄弁に語るラッパーではありません。“必要以上に大きくみられること”を拒否し、負の感情を曝け出します。そしてそれは彼だけが向き合う時間の中で変化を繰り返しながら、“人としてあるべき姿”を模索しているようにすら思います。
彼は「BLACK OUT」に収録されている「FEVER (feat. sogumm)」の「優しい人が幸せになることを祈る。悪い人が悪くならないように祈る」という歌詞が気に入っていると言っていましたが、それはウ・ウォンジェというアーティストが自己と向き合い続けた先に生まれたささやかな主張なのではないでしょうか。

彼は今回の「JOB (Feat. Tiger JK & 김아일)」や各種プロモーションで、デビュー当時のトレードマークだった黒いビーニーを再び着用しています。

それはもしかして、プロのラッパーとして抱えていた過去の“幻影”ともいえる自身の姿と向き合えるようになったという表れでもあるような気がします。

9曲という決して多くはない曲数で紡がれたウ・ウォンジェの1stフルアルバム「BLACK OUT」は、そんな1人の人間としての転換期であり、また、アーティストとして新たなスタートとなるのかもしれません。

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