【SOOJIN】無実のいじめっ子【아가씨】

11月8日、(G)I-DLE出身でソロアーティストとなったスジンが1stミニアルバム『아가씨(AGASSY)』、同名タイトル曲でデビューを果たしました!

スジンは今やK-POPヨジャグルの覇権を争うグループの一つである、 (G)I-DLEでメインダンサーとサブボーカルを担っていた逸材で、2年8ヶ月ぶりに表舞台に帰ってきました。

スジンが (G)I-DLEを離れることになった成り行きは、多くのK-POPファンに周知されていることかと思いますが、“いじめ騒動”です。

ここでは当時のことをほじくり返すことが目的ではないので、簡単な流れだけを説明します。

始まりは2021年2月にスジンの中学生の時の同級生の兄から、SNSやネット掲示板に「妹に対する校内暴力があった」という書き込みがあったことが発端です。

当時、(G)I-DLEの所属事務所であるCUBEエンターテイメントならびにスジン本人も「事実無根」として、否定の声明を出していましたが、追従するように同級生であった女優のソ・シネも被害者としての告発を行なったこともあり、社会的な問題として広がりを見せました。

スジンは最初の告発者と交友があったことは認めたものの、“いじめの事実”については否定を貫きましたが、活動休止を経て8月14日にグループの脱退、翌年の3月5日にはCUBEとの専属契約も解除されたことが発表されました。

その本文には「不送致(嫌疑なし)という捜査結果が出た」と無実が証明された旨が記載されていましたが、結果として放逐されることになります。

公には無実なのにグループ及び事務所を追われるというのは矛盾極まりないのですが、当時は社会的な“校内暴力”ムーブメントがあり、あちらこちらで学生時代の告発によるスキャンダルが起きていました。校内暴力が事実だった場合でも被害者との和解や休養を経て復帰するケースもあったことを鑑みると、スジンもまた時代の被害者だったと言えます。

そんなこんなで、CUBE及び(G)I-DLEはK-POPの至宝とも言える存在を失うことになるのですが、当時の(G)I-DLEは今ほどの圧倒的な強者感のあるグループではありませんでした。

誤解を恐れずに言うのであれば、事務所の規模やデビュー前の触れ込みという諸々の期待の割には、いまいちうだつがあがらないグループというのが個人的な所感でした。当時の肌感というものをお伝えできれば尚いいのですが、いかんせん当ブログのアーカイブが消失しているので、過去記事等の案内ができず申し訳ありません。

スジンを含む6人体制でリリースした最後の曲は2021年1月11日にリリースされた4thミニアルバム『I burn』タイトル曲「화(火花)(HWAA)」で、(G)I-DLEはこの曲でM COUNTDOWNのトリプルクラウン(3週連続1位、殿堂入りとしてそれ以降はチャート外扱い)と共に音楽番組10冠を達成するなど、それまでの殻を破る飛躍を見せることになります。

※厳密には、その後1月27日にリリースされた「화(火花)(HWAA)」の英語版と中国語版のデジタルシングルが6人体制でのラストリリースです。

(G)I-DLEはその次作、2022年3月14日にリリースされた1stフルアルバム『I NEVER DIE』タイトル曲「TOMBOY」で爆発的なヒットを遂げ、スジンの脱退と引き換えに現在至るまでの不動の人気を獲得することになります。そしてそれはデビュー前に期待されていたものを遥かに凌ぐ領域にたどり着いたように私には思えます。

この結果だけを見ると、スジンの存在がブレイクの足枷だったかのように映るかもしれません。少なくとも不条理な脱退という余韻は、グループの人気の覚醒によってだいぶ薄まってしまったことも事実でしょう。

(G)I-DLEがブレイクの階段を駆け上がる最中、スジンは2022年の9月に告発者との法的闘争に終止符を打ちました。それから約1年後、2023年の10月16日に新たに発足された企画会社「BRDコミュニケーションズ」と専属契約を締結したことが明らかになります。

一つ不思議なのは、この「BRDコミュニケーションズ」という会社が新設ということ以外に全く情報がないということです。普通であればどこどこの傘下であるとか、大手事務所で名を馳せていた人が独立した、などの触れ込みの類が一つや二つはあります。それでいて「BRDコミュニケーションズ」のホームページやSNS等もありません。ただスジンのオフィシャルSNSのIDの先頭に「BRD_」という記述があるのみです。

ここまでベールに包まれた会社は珍しいこともあり、二つの面白い仮説が浮かび上がりました。

一つはスジンの個人事務所という説、そしてもう一つは(G)I-DLEのメンバーであるソヨンの会社という説。より興味深いのは後者の方で、スジンの才能を誰よりも信じたのが、グループの中心的メンバーでプロデュースも務めるソヨンだというのであれば…信じたくなる噂話ではありませんか。

再起の道が開かれたということは、スジンという才能を捨ておけない人が多くいたことの証明であり、そのことに私は安堵を覚えましたが、同時に2年半もの間、無実の罪で表舞台から姿を消さざるを得なくなってしまった彼女の心境に想いを馳せることになります。

10月25日、スジンのオフィシャルSNSで最初に公開されたのは「BLACK FOREST」というダンスムービーでした。

“黒い森”と題された映像美の中で一心不乱に優雅に笑顔なく踊る様は、もがき苦しみながらも生を渇望しているように見えます。それは幽閉された時間の苦しさと諦めなかった信念を体現しているかのようでした。

期待感に煽られながらそれから2週間、11月8日ついにミニアルバム『아가씨(AGASSY)』をリリースし、ソロアーティストとしてカムバックを果たしました。

アルバムタイトルでもありタイトル曲にもなっている「아가씨」は「お嬢さん」の意で、楽曲は“オリエンタルサウンドの楽器が与える過去と現在を行き来する妙な雰囲気が魅力的”と説明されています。しなやかで凛としたダンスに彩られた楽曲には「もう私は“ヨジャ・アイドル(女の子のアイドル)”じゃない」というグループからの卒業と1人の女性として強く生きていくという想いが込められているのかもしれません。

スジンはアルバムリリースのインタビューでアルバムの曲について以下のように答えています。

――今回のアルバムに自分を投影した時、1番愛着のあるトラックは何ですか?

スジン:5番トラックの「SUNSET」です。夕暮れ時に好きな誰かと一緒に過ごす時間を綺麗に表現した楽曲で、その誰かに会いに行くために気分の良い想像をして、もしかしたら待つことは辛いかもしれないけれど、その待つ時間さえも幸せに感じられるような楽曲です。

Kstyleより

スジンはこの曲が最もファンに合う日を待ち焦がれていた自身の心境を表現した最も愛着のある曲として紹介しました。

いじめというのはデリケートな問題です。“いじり”との差異が常に議論の対象になるように、受け手側の印象によって愛にも悪意にもなりえる曖昧な境界で揺れ動く、人と関わる以上決して尽きることのないテーマでしょう。一方でお互いが望むのであれば、それは誰かに咎められるものではないはずです。

スジンはカムバックを待ち望んだ。私たちはカムバックを待ち侘びた。それだけが真実です。

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